トレーラーハウスとは何か?
2020.01.07
トレーラーハウスとは何か?
トレーラーハウスとは牽引される形の車軸を持つ移動空間のことであり、実はトレーラーハウスという語は和製英語である。トレーラーハウスという言葉自体の日本国内における起源は定かではない。ハウストレーラーではなく,トレーラーハウスという言葉の順になっているところに,日本人にとってそれはトレーラーではなく,家であって,あくまで動く家というニュアンスで捉えられているようだ。
トレーラーハウスは米国で発明された。米国においては,トレーラーハウスは形状や使用目的によって細分化されている。旅行用のトラベルトレーラーから,住居用のマニュファクチャードホーム,その間に位置するパークトレーラーなど,分類は10種類以上にのぼる。また、それぞれの分類ごとに明確な基準が定められている。
米国におけるトレーラーハウスは、西部開拓時代におけるコネストーガワゴンを文化的な背景としている。コネストーガワゴンとは,馬あるいは牛によって牽引される家財道具を詰め込んだ幌馬車のことで,そこに生活をしながら移動するということを行っていた。ちなみに,幌馬車に寝台を設置した例に関しては、それ以前のヨーロッパでも確認されている。
1900年初頭のモータリゼーションの発達とともに,トレーラーハウスの原型とも言える,T型フォードを改造したレジャー用の車両が発明された。ステインによる1916年の発明は,T型フォードの荷台を改造し,そこにキャンプ道具やテーブルなどを収納できる引き出しを設置し,車を停車した場所でテーブルを広げ,食事を楽しむことができる。これはキャンピングカーの原型と言える発明であり,その後著名な航空機エンジニアであるグレン・カーティスなどによって様々なタイプのトレーラーハウスが開発されていく。
初期トレーラーハウスは主にレジャー用であったが,第二次世界大戦中の米国においては,軍需工場で急増する工員の住居としてトレーラーハウスが用いられた。それをきっかけとしてトレーラーハウスをレジャー用ではなく安価な住居として利用する機会が増えていく。その後トレーラーハウスは巨大化していき,現在においては住居用トレーラーハウスであるマニュファクチャードホームへと至っている。
現在では,レジャー用,住居用含めたトレーラーハウスが年間50万台以上製造されている。
日本における状況
日本において,トレーラーハウスが注目される契機となったのは災害である。特に東日本大震災以降は,行政の発注によるトレーラーハウスの利用が増加している。それに伴い,道路運送車両法において法改正がなされてきた。建築行政に関しては,建築物と車両の境界となる基準が示されている。
しかし,米国における細分化された基準に比べると日本国内における基準は不十分と言わざるを得ない。この状況はトレーラーハウスが建築物なのか,自動車なのかといった行政による法的位置付けのばらつきを生み出す原因となっている。しかし,このような状況を悲観的にとらえる必要はなく,トレーラーハウスに関しては法的規制が少ないという「法的エアポケット」のような状況が生じているとも言える。
トレーラーハウスの多様な利用法
近年トレーラーハウスに関し,様々な利用法が行われている。災害時においては,福祉避難所や指定外避難所,災害救助法における応急仮設住宅をはじめ,平常時利用に関しては,自動車として登録した状態で遊休地活用を目的とした宿泊施設,移住体験施設などが,官民問わず試行されている。いずれもトレーラーハウスの持つ可動性,設置性の高さを利用している点が注目され,これまで建築という法体系ではなし得なかったことを実現している。
今後期待されるトレーラーハウスと親和性の高いと考えられるキーワードを列挙すると,シェアリングエコノミー,働き方改革,サブスクリプション,IOT,アディティブ・マニュファクチャリング,オフグリッド,自然エネルギーなどである。実際に米国では,ウーバーあるいはエアビーアンドビーのトレーラーハウス版のサービスとも言えるOutdoorsyなども登場している。これはトレーラーハウスを利用したシェアリングエコノミーである。上記コンセプトによるトレーラーハウスを核としたサービスが展開されると,日本国内におけるトレーラーハウス利用も加速されると期待できる。
今後必要となること
現在生じているトレーラーハウスの状況は法的規制の緩さに起因することが少なくない。だからと言って,従来の枠にはまるように規制を強化することは望ましくなく,現在みられる創造的利用法,また今後期待されるトレーラーハウスの運用手法の可能性を減ずることのないような制度設計が今後期待される。