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競争条件を決めるデジタルビジネスでのマネタイズ

2019.07.09

“お金”にこだわってデジタルビジネスを切り分けてみたら……
誰もが気楽に口にするようになった「デジタルビジネス」。だがそこには、一言で片付けるわけにはいかない程、たくさんの形がある。分類の仕方はいくつもあり、多くの場合は軸足を置くインダストリーによる違い(製造業におけるデジタルビジネス、金融界のデジタルビジネス)や、デジタルを用いる職種や業務による違い(デジタルマーケティング、RPA)、あるいは用いるデジタルテクノロジーによってジャンル分けするケース(AI、IoT)も少なくない。

一方、あまり使われていない分類もある。例えば「お金のもらい方」という尺度で切り分ける、という発想。もちろんこうした分類も可能であり、実は新しい発見に行きつくことも可能なのだ。「デジタルトランスフォーメーション」とか、「第4次産業革命」とか、長々とした言葉や重々しい概念で語られたり、「バラ色の未来」を見つめるような眼差しで語られたりすることの多いデジタルビジネスだが、「ビジネス=商売」なのだから当然お金は大切。気取りを捨て、商魂に忠実に分類をしてみるべきだ。

いつ、どこで、誰から、いくらもらうのか
お金を得るビジネスの基本は3つしかない。「誰からもらうか(who)」「いつどこでもらうか(when, where)」「いくらもらうか(how much)」の3つ。順番に考えながら分類を進めてみよう。

「誰からもらうのか」の正解は「お客さま」。では「お客さま」って誰なのか? これが分類の鍵になる。大きくわければ、“事業者”、“消費者”、そして“プラットフォーマーのような第三者”ということになる。従来ビジネスの大半がBtoBかBtoCかで切り分けられてきたのと違い、3番目のBtoXの存在が大きいのもデジタルビジネスの特徴といえる。

「いつどこで」は、“ビジネスの最初の段階”か“最後”なのか、“使うたび”なのか、“定期的なのか”で分けられるだろう。近年、非デジタル領域で注目されているサブスクリプション型ビジネスも、もとはといえばデジタルビジネスの世界で定着・浸透したことが背景にあった。

最後の「いくらなのか」については、「一度にもらう金額の大小」で分類するのがわかりやすい。実際のデジタルビジネスを眺めてみてもその幅は非常に広く、億単位のビジネスもあれば、百円単位を積み重ねていくビジネスまである。いわゆる“マネタイズ”の方法による違い。それがデジタルビジネスでは驚くほど多様であり、「どの形をとるかで勝ちパターンが大きく変わる」という点も面白いポイントだ。言い換えれば、マネタイズの成否はビジネスモデル構築の巧拙で大きく違ってくる。それがデジタルビジネスでは際立っているということだ。

ビジネスモデリングがマネタイズの勝敗を決める
ビジネスモデリングの部分で、デジタルと非デジタルには重要な違いがある。なぜなら、普通のビジネスモデリングでは、ターゲット顧客と提供価値の組み合わせこそが肝であり、マネタイズも重要ではあるものの、それはオペレーション寄りの話として終始する。

一方、デジタルビジネスにおいてはモデリングこそが肝となる。例えば、事業者から、数十万〜数百万円を、定期的にもらう形のデジタルビジネスを見てみよう。よく、SaaS(Software as a Service)と呼ばれるビジネスモデルだ。このモデルでは、マーケティングにお金を気前よく使う。売上の5割近くを営業・マーケティングに使っているセールスフォースの事例などが有名である。

他方、消費者から数百円単位を、使うたびにもらう形のビジネスモデルもある。スマホゲームのアイテム課金モデルがその典型例だ。こうしたデジタルビジネス領域では、CX(Customer Experience)を改善していくことに多くのリソースを投じている。なぜなら、「課金してくれる1割以下のヘビーユーザー」に使い続けてもらうことでマネタイズを実現する、というビジネスモデルだからである。

“夢の未来”を象徴するデジタルに欠かせない“銭”という感覚
マネタイズによる分類(誰から、いつ、いくら)でいえば、上記2例はまったく異なるカテゴリーに属することになるのだが、1つの共通項を持っている。マネタイズの仕方が一方向に収れんしていく点だ。BtoBのSaaS型モデルであろうと、BtoCのゲーム型課金モデルであろうと、最も有効だといえるマネタイズモデルがある時点で確立される。そして、ひとたび優れたマネタイズモデルが領域内で認識されると、そのモデルが競争のルールを設定するようになっていったのである。

こうなれば、従来からのプレーヤーも新たな参入者も他のマネタイズでは勝負ができない。そして、そのルールの中では、勝ちパターンもまた明確になる。そのパターンを忠実に実行した人が勝者となるのがデジタルビジネス固有の原則。だからこそ、デジタルビジネスのプレーヤーは非デジタルプレーヤー以上に、お金に執着しなければいけない。未来を語り、夢を見るのも悪くないが、誰よりも商魂たくましいプレーヤーだけが勝ち残るフィールドにいることだけは、しっかりと自覚する必要がある。