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デジタルトランスフォーメーション(DX)は死んだのか

2019.03.01


米国でのDXへの手のひら返し
DXの取り組みに関する、絶望的なニュースが続いている。GE自体の業績の悪化、そしてGEデジタルの売却報道により、GEのDXは曲がり角を迎えた。ハーバードビジネスレビューでは、 2018年3月に“Why so many high-profile digital transformation fail”と題する記事が掲載され、FordやP&Gといった有名企業がDXの失敗事例と名指しされている。結局、デジタルに投資しても、業績が良くならないではないかという指摘だ。

国内ではまだまだ続くDX人気
一方で、国内では、まだまだDXへの興味が高い状態が続いている。Google Trendでは、2018年9月に「デジタルトランスフォーメーション」というワードの検索指数が最大になっている。日経新聞の一面トップには、「日本のIT投資 不足深刻」(2018年10月14日付朝刊)という記事が掲載された。古いシステムへの保守や点検のために、ビッグデータやAIへの投資が十分でないという論調になっている。つまり、レガシーのITではなく、デジタル投資をもっと増やせということだ。

DXは今後どうなるのか?
果たして、経営における「解」の一つとなっているDXは、日本ではどのような展開をたどるのか。バズワードのレッテルを貼られて、消えてしまうのか?それとも、日本企業における変革の旗印として生き残り続けるのか。

現場でのDXへの懐疑論
現場に目を向けると、デジタルが、企業全体を変える程の勢いがあるかというと、その実感のある人は少ない。デジタルはあくまでツールだ。ツールが、会社のビジョンやビジネスモデルまで変えるはずがない、という人もいる。デジタルには、そこまでのパワーがないと思われている。さらに、デジタルはアイデア先行で、実現性が薄いと思っている人も多い。バラ色に聞こえるアイデアが計画に織り込まれるけれども、アイデア倒れでなかなか実務に落とし込むところまで具体化できないという声もある。

それでもデジタル活用は進む
ただ、デジタル自体の活用が、企業内で進んでいることは間違いがない。人工知能(AI)のような要素技術だけでなく、RPA(Robotic Process Automation)やチャットボットも普通に会話の中で登場するようになった。
企業内でのコミュニケーションツールも、メール一辺倒ではなくなった。チャットツールのSlackは、日本でも毎日50万人が使っている。JTのようなデジタルを事業対象としていない企業もユーザーの1社だ。

デジタル活用で事業の展開スピードは上がる
デジタル活用により、企業が事業を展開するスピードは確実に上がっている。
クラウドサービスは、事業の垂直立ち上げをもたらす。ECサービスのBASEを使えば、簡単なネットショップを1時間もかからずに立ち上げられる。
APIを準備していれば、他社との提携を速やかに実現できる。事業提携の発表から数ヶ月で、数百万人単位のユーザーを送客する仕組みを立ち上げられる。もちろん、個人情報のセキュリティを担保した中での話だ。

デジタルのスピード感が変革の触媒として働く
デジタル活用による事業スピードの変化は、当たり前のものになる。そのスピード感を一度味わった人は、他の事業でも同じことを求めていく。例えば、Slackでのコミュニケーションスピードに慣れた人は、もはやメールだけのやり取りでは満足できない。それが多数派を形成すれば、社内のプロセスを変える力になる。プロセスが変われば、求められる人材の定義も変わる。そして、組織の体制が変わる。

デジタルが触媒となって、人の働き方を変える。それが、人の意識を変える。そして、最後に大きなうねりとなって企業を変えるのだ。振り返ってみたら、デジタルによる変革が終わっていたということになる。
アレックス・モサドの「プラットフォーム革命」によると、産業革命も一つの事件とみなされがちだが、実際には数十年にわたるプロセスだった。DXという言葉自体は消えるかもしれない。ただ、デジタル活用で動き始めた波を押しとどめることはできない。