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オープン&フリー化が創出する衛星データビジネス

2019.03.25

オープン&フリー化が衛星データ活用を変える
もともと、衛星データは各国の政府が持ち、その使い道は主に地球観測、安全保障、学術研究に限られていた。ただ、2008年に米国政府がオープン&フリー化を進め、Landsatという地球観測向け衛星の画像データを無償公開したのを皮切りに、民間企業の動きが活発になってきた。

Amazon.com社は、Amazon Web Service(AWS)上で誰もが利用できる公共データセット(Public Data Set)を公開した。衛星データは、その収集・処理・解析が“特殊”であり、専門家でなければ取り扱うことが難しかった。だが、AWSによって衛星データがAPI公開され、データ連携が可能となり、一般のアプリケーション開発者でも容易に取り扱えるようになったのだ。

現時点でAWSを利用している主なユーザーは政府機関であるものの、“使いやすさ”や“トータルコストの安さ”が徐々に浸透してきたため、民間企業の利用も進んでいる。民間企業では、衛星データ提供サービスの大手である米Planet社、米DigitalGlobe社、米Astro Digital社など、商用衛星を保有する企業が観測したデータをAWS上で公開している。

このようにビッグデータ解析を行うための環境が整備されてきたことで、データビジネスを展開する民間企業も増えている(図1)。

図1 代表的なデータビジネスの例

※1 コンステレーション
複数の人工衛星を協調動作させ、一つの機能やサービスを提供する方法
※2衛星 AIS(Automatic Identification System)
AISとは、船舶の識別符号、種類、位置、針路、速力、航行状態及びその他の安全に関する情報を自動的にVHF帯電波で送受信し、船舶局相互間及び船舶局と陸上局の航行援助施設等との間で情報の交換を行うシステム
このAIS信号を衛星で受信することで、全球における船舶の航行情報を得ることができる。
※3 SAR(Synthetic Aperture Radar:合成開口レーダー)
マイクロ波(もしくはミリ波)を衛星より発射し、対象物から反射されるマイクロ波を捉えて対象物の観測を可能とするレーダーの一種。主な用途は降雨等の気象観測。
(図: 宇宙システム開発利用推進機構(JSS)によるhttps://ssl.jspacesystems.or.jp/blog/archives/1348” target=「欧米宇宙利用事例集」を基に筆者作成)

宇宙データビジネスの活性化に向けた国の支援は本格化
このような民間の動きをさらに加速させるため、我が国のビジネス支援メニューが2018年度より本格化してきた(図2)。特にJ-SPARC(JAXA Space Innovation through Partnership and Co-creation:JAXA宇宙イノベーションパートナーシップ)は、JAXAが保有している資金以外のアセットを活用した無償の事業化支援施策として注目されている。

図2 宇宙ビジネス支援メニュー

(出所:各種資料より筆者作成)

衛星データをビジネス活用へシフトさせるためには
衛星データの特徴は、地上からアクセス困難な場所も含めて、広域にわたって同じ精度でデータを取集できる点にある。しかしながら、衛星データのみで課題を解決することは困難である。地上にあるデータ、例えば、UAV(Unmanned Aerial Vehicle:無人航空機) 、ドローン、MMS(Mobile Mapping System;移動計測技術)などの近接リモートセンシングや、各種センサやソーシャルネットワークと融合しなければ、課題解決の価値を創出していくことはできない。地球環境データの統合プラットフォームであるDIAS(Data Integration and Analysis System)は、地球規模/各地域の観測で得られたデータを収集・蓄積・統合・解析するだけでなく、社会経済情報との融合も可能なシステムである。2010年度にプロトタイプが完成し、2016年度から実運用に向けた開発がスタートしている。
このように、衛星データから価値を創出するための利用環境は整いつつある。今後、衛星データをビジネス活用へシフトさせるために必要なことは、“実際にビジネスとして成立させることができるのか”、この点を示す必要がある。衛星データビジネスの先進国である米国では、基本的には民間企業に対して政府がライセンスの付与とアンカーテナント契約(長期購入契約)を行い、それによって政府の必要性を満たすサービスの提供が安定的に行われるという仕組みになっている。そして、米国政府へのサービス提供といった信用力を持って、他国や民間企業に販売し、ビジネス化された。日本国においても米国と同様の仕組みを成立させることが、未熟な衛星データビジネスを盛り上げるために必要なのではないかと筆者は考える。