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あなたは何型人間ですか?

2019.03.18

いったい何の質問ですか?
「あなたは何型人間ですか?」と質問されたあなたはどう答えますか?「うーん、性格が几帳面なほうだからA型かなー?」、「私は夜更かしが好きだから夜型!」などと答えるかもしれない。
実は、これは血液型のことを質問しているのではなく、あなたの専門性に関する質問なのだ。言い換えると、「あなたが専門としている知識がどのような姿形をしているのか?」という質問なのだ。これは、新しい概念や知識体系の創出に関わる非常に重要な考え方として近年注目されている。

I型・T型人間とは何ですか?
I型・T型人間とは、IDEOの創業者のデイヴィッド・ケリーとトム・ケリーが提唱した考え方だ。ちなみに、二人は兄弟でもある。
I型人間は、ある特定の狭い領域に関してとても深い知識をもっているものの、その他の領域に関してはあまり知らない人のことだ。ある特定領域に関してなら誰にも負けない自信があるという人、おそらく研究者のような人材を想像されるのではないか。自分の研究分野に関する知見はおそらく国内、あるいは世界トップクラスであるのに、アイドルグループに関する昨今の文化現象については何もしらないなどと言った人だ。Iというアルファベットに、狭い分野であれば深く知っているというイメージが重ねられてI型人間とネーミングされている。
T型人間とは、特定分野に関して深い知識をもちつつもそのほかの分野に関しても浅くではありますが幅広くいろいろな知識を持っている人のことを言う。トム・ケリーの著書である「クリエイティブ・マインドセット」によると、イノベーションを起こすにはT型人間が適している。つまり、幅広い知識から自分の専門分野で活かすためのアイディアを得て、新しい概念を創造する人のことだ。
「T」の横棒が幅広い知識を表し、縦棒が深い専門知識を持っているというイメージを重ね合わせて造語されている。新しい概念や知識体系を創り出すためには、専門分野以外の知見の導入や組み合わせが必要となるという興味深い主張だ。

フォーク型人間、星型人間とは何ですか?
ここからは、私が考えた「人間の知識の形」である。
フォーク型人間とは、ある位特定の幅を持った分野に複数の専門的な軸を持った人間のことを指している。これはT型人間の拡張版とも言える人材で、Tの横棒に複数の縦棒を追加して櫛のような姿になっているイメージだ。例えば、雑貨だけをデザインするのではなく、建築物から家具、家電製品までもデザインしてしまう。あるいはデザイナーでもあるしエンジニアでもあるという人たちだ。このような人材は個人レベルでも新しい概念を創り出していけるだろう。
日本の高等教育の現状からするとこのような人材を輩出するのは非常に困難だ。なぜなら、高等教育は学士、修士、博士と進むに従い、研究領域が狭まり、ついには針の先端のような領域を研究するようになるからだ。つまりI型人間である。しかし近年、複数の専門分野を一つの学科の中で学べる教育プログラムが増えていることを考えると、フォーク型人間が新しい産業を牽引する人材となるかもしれない。
星型人間は、一言でいうと天才だ。これは15世紀のイタリアを中心として活躍した芸術家をイメージして名付けた。彼らは、絵画、彫刻、建築、工学などの複数分野で天才的な偉業を成し遂げており、一人の人間からたくさんの才能が突き出るという意味で☆というイメージを重ねた。
なかでも初期ルネッサンスに活躍したフィリッポ・ブルネレスキは、彫金師でもあり、時計師でもあり、画家でもあり、彫刻家でもあり、建築家でもあり、思想家でもあり、遠近法の生み出した人物でもあり、世界で初めて目覚まし時計を作った人物でもあり、優れたエンジニアでもあった。いったい、いくつの才能の持ち主なのだろうか。
彼の素質が最も発揮された仕事の一つに、イタリアのフィレンツェにあるサンタマリア・デル・フィオーレ大聖堂のドームの設計および施工方法の考案がある。当時世界最大のドームをかけるためのエンジニアリングとデザインを見事に両立させた作品だ。
またミケランジェロ、ラファエロ、ダヴィンチも同様に複数分野に関して超人的偉業を残した人物達でもある。
彼らがルネッサンスという新しい概念創出の強力なエンジンとなり、社会を変えていったのだ。

サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂正面/サンタ・マリア・デル・フィオーレ大聖堂ドーム

私たちには何ができるのか?
天才の偉業を見てもため息しか出てこないが、私たちでもできることがあるはずだ。一人ではなく、多様な能力を持った人材で構成されたチームをうまく作れば、今まで世の中になかったものを作ることができるはずだ。
その中で最も重要なことは、チームを1つにまとめ上げるヴィジョンである。それがあってこそ、多様な人材による新たな価値創造の可能性が高まるのではないか。